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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2407号 判決

控訴人 辻本芳子

右訴訟代理人弁護士 種田誠

被控訴人 尹炳泰

右訴訟代理人弁護士 横山隆徳

被控訴人 須藤民夫

右訴訟代理人弁護士 野中邦子

主文

原判決中控訴人の参加請求のうち、被控訴人須藤民夫に対する別紙物件目録記載(一)の土地の所有権確認請求を棄却した部分を取り消す。

控訴人と被控訴人須藤民夫との間で前項記載の土地が控訴人の所有であることを確認する。

控訴人のその余の参加請求に関する控訴及び当審で追加された控訴人の被控訴人尹炳泰に対する抵当権設定登記の抹消登記手続請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

一  控訴人

1  原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。

2  控訴人と被控訴人らとの間で別紙物件目録記載(一)の土地が控訴人の所有であることを確認する。

3  被控訴人尹は控訴人に対し、同目録記載(一)、(二)の土地について水戸地方法務局昭和三五年八月八日受付第二七九九号をもってされた所有権移転仮登記の抹消登記手続をせよ。

4  (当審における新たな請求)

被控訴人尹は控訴人に対し、前項の土地について水戸地方法務局昭和三六年一月一二日受付第一二八号をもってされた抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

5  被控訴人尹の控訴人に対する反訴請求を棄却する。

6  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴人の当審における新たな請求を棄却する。

3  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

一  被控訴人尹の被控訴人須藤に対する本訴請求(原審における第二次的請求)

1  被控訴人尹の本訴請求原因

(本位的請求原因)

(一) 別紙物件目録記載(一)、(二)の土地(もと茨城県那珂郡東海村村松字下ノ内一二二〇番八三、畑三〇七四平方メートルであったが、昭和四七年五月四日上記(一)(二)の二筆に分筆されたもの。以下あわせて「本件土地」という。)は」もと訴外亡須藤好夫(以下「亡好夫」という。)の所有であったところ、被控訴人尹は、昭和三五年八月八日亡好夫との間で、これを代金一〇三万円で買い受ける旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、水戸地方法務局同日受付第二七九九号をもって同日付売買(条件・農地法五条の許可)を原因とする所有権移転仮登記(以下「本件仮登記」という。)を経由した。

(二) 本件土地は、亡好夫が昭和二七年三月一日に自作農創設特別措置法一六条により政府から売渡しを受けたもので、登記簿上の地目は畑であったが、もともと湿地状の未墾地であった上、右売渡後二、三年間その一部が形だけ耕作されたにすぎず、本件売買契約当時、既に全体としては完全な雑地ないし原野状態を呈し、その現況は農地ではなかった。したがって、本件売買契約は直ちに効力を生じ、被控訴人尹は右契約と同時に本件土地の所有権を取得したものである。

仮に、右契約当時本件土地の現況が農地であったとしても、本件土地は、その後全く耕作されることなく放置されたため、一面に茅、雑草、篠、竹、雑木等が生い茂り、遅くとも右契約から七年を経た昭和四二年八月八日ころには全面的に完全な原野又は荒ぶ地状を呈して非農地化し、現在も同様であって、容易に耕作可能な状態に回復しえない状況にある。なお、本件土地及びその周辺土地は、昭和四六年三月には都市計画法七条の市街化区域に指定され、以来全体として宅地化の方向に向かいつつある。そして、本件土地が右のように非農地化するについては、買主である被控訴人尹がこれに関与した事実はなく、責められるべき理由はないから、右非農地化した時点において、本件売買契約は農地法所定の許可ないし届出を経ることなく効力を生ずるに至り、被控訴人尹は本件土地の所有権を取得したものというべきである。

(三) 亡好夫は昭和四六年二月一一日死亡し、その子である被控訴人須藤が相続により本件土地に関する権利義務を承継し、同年六月三〇日右相続を原因とする所有権移転登記を経由し、同被控訴人は本件土地を現に占有している。

(四) よって、被控訴人尹は、所有権に基づき、被控訴人須藤に対し、本件土地につき本件仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をすること及び本件土地を引き渡すことを求める。

(予備的請求原因)

仮に、本件土地の現況が現在も農地であるとすれば、本件土地は前記のとおり都市計画法七条の市街化区域に指定されているので、被控訴人尹は被控訴人須藤に対し、本件土地につき茨城県知事に対し農地法五条一項三号の所有権移転の届出をし、右届出が受理されたときは、前同様の所有権移転の本登記手続をすること及び本件土地を引き渡すことを求める。

2  本訴請求原因に対する被控訴人須藤の認否

すべて認める。

二  控訴人の被控訴人らに対する参加請求

1  控訴人の参加請求原因

(一) 本件土地は、もと亡好夫の所有であったが、昭和四六年二月一一日亡好夫の死亡により被控訴人須藤がこれを相続により取得したものであるところ、控訴人は、同年七月一日被控訴人須藤との間に、本件土地を買い受ける旨の売買契約を締結した。

(二) 控訴人は、本件土地について、水戸地方法務局同年九月二一日受付第三八九五八号をもって農地法五条の許可を条件とする売買を原因として所有権移転仮登記を経由し、次いで、同年一〇月七日茨城県知事により同条一項三号の届出が受理され、同法務局同月一一日受付第四一八八六号をもって右仮登記に基づく本登記を経由した。

その後控訴人は、昭和四七年三月七日訴外東海村との間に本件土地のうち別紙物件目録記載(二)の土地を譲渡する旨の契約を締結し、同年五月四日同訴外人に対する所有権移転登記を了した。

(三) しかるに、本件土地には、被控訴人尹のため、本件仮登記及び水戸地方法務局昭和三六年一月一二日受付第一二八号をもって抵当権設定登記がされており、被控訴人らは別紙物件目録記載(一)の土地が控訴人の所有に属することを争っている。

(四) よって、控訴人は、所有権に基づき、被控訴人尹に対し、本件仮登記及び右抵当権設定登記の抹消登記手続を求めるとともに、被控訴人らとの間で、右目録記載(一)の土地が控訴人の所有であることの確認を求める。

2  参加請求原因に対する被控訴人らの認否

参加請求原因(一)のうち、本件土地がもと亡好夫の所有であったこと及び亡好夫が昭和四六年二月一一日死亡したことは認めるが、その余は否認する。同(二)、同(三)は認める。

3  被控訴人らの抗弁

(控訴人の所有権取得について―被控訴人ら)

(一) 仮に、控訴人・被控訴人須藤間に本件土地の売買契約が締結された事実があるとしても、当時被控訴人須藤としては、既に亡好夫が一〇年以上前に被控訴人尹に売却した土地につき自己に所有名義が残っていることに煩わしさを感じていたところ、控訴人から自分に任せれば一切迷惑はかけないから、名義を控訴人に移転するよう甘言をもって誘われたため、金一〇〇万円の支払を受けて、控訴人との間に、売買する意思がないのに右売買契約を仮装したものである(その時期は、昭和四六年九月二〇日ころである。)。

よって、右売買契約は民法九四条により無効である。

(二) また、右売買契約は、不動産ブローカーである控訴人が、本件土地の値上りに乗じて巨利を得ようと企て、被控訴人尹において既に本件土地を正当に買い受けていることを知りながら、被控訴人須藤を抱き込み、被控訴人尹の権利を不当に侵害する目的で締結したものであるから、民法九〇条により無効である。

(三)(1) 被控訴人尹は、一、1、(一)のとおり昭和三五年八月八日亡好夫との間に本件売買契約を締結した。

(2) 本件土地は、一、1、(二)のとおり右契約当時、登記簿上の地目は畑であったが、既にその現況は農地でなかったし、仮に農地であったとしても、その後非農地化し、少なくとも現在においては農地ではない。

よって、本件売買契約は、契約と同時に、又はその後本件土地の現況が農地でなくなった時点において、農地法所定の許可ないし届出を経ることなく効力を生ずるに至り、被控訴人尹は本件土地の所有権を取得した。

なお、昭和四五年五月二六日亡好夫がした本件土地の農地法四条による原野への転用許可申請が東海村農業委員会に受理されなかったことは控訴人主張のとおりであるが、亡好夫は、当時既に現況が原野となっているから同法五条の許可申請をするよりも容易に許可が得られるであろうとの同委員会委員大内朝次ほか一名の勧めに従って右申請をしたところ、同委員会事務局は、本件土地が未墾地買収、売渡しを経たいわゆる解放農地であることから非農地への転用は農地法の精神に照らし好ましくないとの見地に立って、該申請を同委員会の審議にかけることなく、申請書を返却したものである。したがって、右の経過は、その当時本件土地の現況が農地であったことの証左とはならないし、同委員会がそのように判断していたことを意味するものでもない。

(3) 被控訴人尹は、本件土地の所有権移転登記請求権を被保全権利として、昭和四六年一月一八日亡好夫を債務者として本件土地につき処分禁止の仮処分決定を得、同日その旨の嘱託登記がされた。その後本件土地については、同年六月三〇日付で被控訴人須藤のため相続を原因とする所有権移転登記がされ、続いて控訴人のためその主張のとおり所有権移転仮登記及び本登記がされているが、右仮登記及び本登記の原因である控訴人主張の同年七月一日付控訴人・被控訴人須藤間の売買は、右仮処分決定に牴触し、被控訴人尹に対してはその効果を主張しえないものであり、したがって、控訴人は、右売買による所有権取得をもって被控訴人尹に対抗することができない。右各登記は、被控訴人尹が本訴において求める被控訴人須藤からの所有権移転登記手続がされるときに、登記官の職権により抹消されるべきものである。

(抵当権設定登記について―被控訴人尹)

(四) 被控訴人尹は、昭和三六年一月一二日亡好夫との間に、本件売買契約による所有権移転登記が農地法上の許可等の関係で終局的に不可能となった場合に亡好夫が負うべき売買代金一〇三万円の返還債務を担保するため、本件土地につき抵当権を設定する旨の契約を締結した。

4  抗弁に対する控訴人の認否

(一) 抗弁(一)は争う。

(二) 同(二)は争う。

(三)(1) 同(三)(1)は認める。ただし、代金額は、金九三万円である。

(2) 同(三)(2)のうち、本件売買契約当時本件土地の登記簿上の地目が畑であったことは認めるが、その余は争う。

本件土地の現況は、本件売買契約当時から現在まで一貫して農地である。すなわち、

(イ) 本件土地を含む一帯の土地は、かつて訴外前島英次郎の所有に属し、古くから地目、現況とも畑であり、小作賃貸されていたが、自作農創設特別措置法により買収期日を昭和二四年七月二日として買収がされた。そして、本件土地については、亡好夫が昭和二七年三月一日を売渡期日として同法一六条(甲第五号証の売渡通知書に同法四一条二項とあるのは誤り)により売渡しを受け、昭和二九年四月一五日茨城県知事からの嘱託登記の方法により所有権取得の登記を経由したのであるが、その当時も本件土地の現況は畑であった。

右の経過からすれば、本件売買契約が締結された昭和三五年八月八日当時、本件土地の現況が畑であったことは明らかである。

(ロ) 亡好夫は、昭和四五年四月ころ東海村農業委員会による本件土地の現況が農地でない旨の現況証明の発付を受け、これによって本件土地の地目の変更登記手続をしようとしたが、右発付を拒否された。次いで、亡好夫は、同年五月二六日本件土地につき農地法四条による原野への転用許可申請をしようとしたが、同委員会は該申請を受理せず申請書をそのまま亡好夫に返却し、同人はその後更に右申請手続をとっていない。以上の事実は、右当時同委員会において本件土地の現況が農地であって到底原野とは認められないとの見解を有していたことを示すものである。一方、控訴人及び被控訴人須藤がした前記1、(二)の所有権移転の届出に対しては、所管の県北農林事務所の担当者による実地踏査、被控訴人須藤との面接等の結果に基づき、茨城県知事は右届出を受理しており、このことは、関係機関において本件土地を現況農地と認定していたことの証左である。

(ハ) 昭和二七年一二月二〇日農地第五二九号農林事務次官通達によれば、農地法にいう農地とは、耕作の目的に供される土地をいい、その中には現在耕作されていなくても耕作しようとすればいつでも耕作できるような土地、すなわち客観的に見てその現状が耕作の目的に供されるものと認められる土地(休耕地、不耕作地)を含むものとされている。本件土地のように、もともと農地であった土地が耕作されないで推移した場合、これを原野、休耕地のいずれと見るべきかは、耕作者又は所有者の耕作に対する心構えと該土地を耕作地に復するのに要する労力、経費の大小等によって判断すべきところ、右にいう労力、経費の大小については、時代と共に変遷が甚だしく旧来の観念をもっては律しえない。本件土地は、今日の進歩したブルドーザーや耕耘機をもってすれば容易に耕作可能の状態になしうるものであり、その費用は反当たり昭和四五年八月当時には金一〇万円弱、現在でも金二〇万円程度を要するのみであり、したがって、本件土地は現在に至るまで一貫して農地性を失っておらず、まさに休耕地にあたるというべきである。

(3) 同(三)(3)のうち、被控訴人尹が昭和四六年一月一八日本件土地につき処分禁止の仮処分決定を得、同日その旨の嘱託登記がされたこと、その後同人主張のとおりの各登記がされていることは認めるが、右仮処分決定の被保全権利は不知、その余の主張は争う。

(四) 同(四)のうち、抵当権設定契約締結の事実は認めるが、その趣旨・内容は後記5(一)主張のとおりである。

5  控訴人の再抗弁

(抗弁(三)について)

(一) 本件売買契約は、昭和三六年一月一二日被控訴人尹と亡好夫との間で合意解除された。そのいきさつは、次のとおりである。

被控訴人尹は、昭和三五年八月八日亡好夫との間で本件売買契約を締結し、同日一反歩当たり金三〇万円(坪当たり金一〇〇〇円)の計算による代金九三万円を支払ったが、右契約は、農地法五条による県知事の許可を条件とするものであったところ、同被控訴人としては本件土地の転用計画を全くもたず、転用のための資金調達の目途もなく、地価の値上りを期待しこれを転売して利得を得る目的で右契約を締結したのであった。ところが、当時は、関係機関の通達等により、従来安易に取り扱われていた農地法五条の転用許可の厳格化が図られるに至った時期であり、被控訴人尹においても、東海村農業委員会事務局等との折衝の結果、投機目的に出た本件売買契約に基づく所有権移転については到底転用許可を得られないことを悟るに至った。そこで、被控訴人尹は、本件土地の所有権取得を断念し、昭和三六年一月一二日亡好夫との間で、本件売買契約を合意解除するとともに、亡好夫が受領済みの売買代金の返還債務の処理として、代金九三万円に昭和三五年八月八日から同年一一月末までの利息として金一〇万円を加え、貸付元金を一〇三万円とする準消費貸借契約を締結し、これに基づく債務を担保するため、亡好夫が本件土地につき抵当権を設定する旨約し、その旨の登記が経由された。

なお、本件売買契約に際し作成された契約書である甲第二号証及び丙第三〇号証の売買代金額欄には当初「金一八万六〇〇〇円」と記載され、これが「金一〇三万円」と訂正されているが、右当初の記載は契約当日税務対策として坪当たり金二〇〇円の計算でなされたものであり、右訂正は、前記抵当権設定登記手続を司法書士に委任した昭和三五年一二月中に行われ、亡好夫名義の昭和三五年八月八日付金一〇三万円の領収書(甲第三号証)も右訂正がされたのと同じころに作成されたものである。このことは、右訂正等がされた時点で、右契約書の用途が税務署への提出用ということから準消費貸借契約の元金を証明することに変更されたこと、すなわち被控訴人尹と亡好夫とが本件土地の売買をとりやめたことを明らかに示している。

(二) 仮に右主張が認められないとしても、本件売買契約に基づいて被控訴人尹が亡好夫及びその承継人である被控訴人須藤に対して有する農地法五条の所有権移転許可申請に協力すべきことを求める権利は、本件売買契約が成立した日より一〇年を経過した昭和四五年八月八日をもって時効消滅し、被控訴人尹はもはや県知事より右許可を受けて本件土地の所有権を取得するすべがなくなったものであり、したがって、本件売買契約は右同日の経過をもってその目的が達成されないことに確定し、実効なきに帰して失効した。なお、その後、現在までの間に、偶然により本件土地の現況が農地でなくなったとしても、一旦消滅した本件売買契約が復活するいわれはない。

控訴人は、前記の如く被控訴人須藤から昭和四六年七月一日本件土地を買い受け、その後本件土地の所有権を取得して所有権移転登記を経由し、被控訴人須藤が本件土地について有していた権利を包括的に取得した者であるから、本件土地の所有者として、昭和五〇年四月三〇日の原審第一九回口頭弁論期日において前記消滅時効を援用した。

また、自己の固有の資格において右援用をすることができないとしても、控訴人は、本件土地を買い受けた者として被控訴人須藤に対し本件土地の完全な所有権を移転する義務の履行を求めうる立場にあるところ、仮に同被控訴人が前記消滅時効を援用しないとすれば、控訴人の本件土地に対する所有権は危殆に瀕し、同被控訴人の右履行は不可能となるおそれがあるから、このような場合、控訴人は同被控訴人に代位して右消滅時効の援用をすることができるものと解すべきである。

(抗弁(四)について)

(三) 亡好夫の債務を承継した被控訴人須藤は、昭和四六年一〇月一九日被控訴人尹に対し、元利合計金一六九万九四〇〇円を弁済のため提供し、その受領を拒絶されたので、同月二一日これを供託した。

6  再抗弁に対する被控訴人らの認否

(一) 再抗弁(一)のうち、本件売買契約の締結(ただし、代金額は金一〇三万円であり、契約当日全額支払済みである。)、抵当権設定契約の締結(ただし、その趣旨、内容は前記3(四)主張のとおりである。)、抵当権設定登記の各事実は認めるが、その余は否認する。なお、甲第二号証、丙第三〇号証の売買代金額欄の訂正及び甲第三号証の作成は、いずれも昭和三五年八月八日に行われたものである。

(二) 同(二)は争う。農地法五条の許可(届出)協力請求権の消滅時効は、被控訴人ら間の問題であって、被控訴人須藤がこれを援用せず、援用の意思も有していないのであるから、第三者である控訴人においてこれを自ら、あるいは被控訴人須藤に代位して援用することはできないというべきである。

また、売買契約は当事者の合意のみによって成立する一方、農地法上の許可(届出)は契約の効力発生のための法定条件であって、両者は厳に区別されるべきであり、許可申請(届出)に協力すべきことを求める権利が時効消滅したとしても、売買契約は、それ自体が時効消滅しない以上債権契約として有効に存続する筋合である。したがって、右権利の消滅時効期間満了後に当該土地が農地でなくなった場合でも、売買契約が有効に存続する以上、所有権移転の効果が発生し、売主は所有権移転登記義務を免れない。

(三) 同(三)は争う。

7  再抗弁(二)に対する被控訴人らの再々抗弁

(一) 本件土地については、昭和三五年八月八日被控訴人尹のため本件仮登記が経由されているところ、仮登記は民法一四七条二号の仮差押え、仮処分に準ずるものであるから同条の準用により被控訴人尹の農地法五条の許可協力請求権の消滅時効は中断し、本件仮登記の存する間は時効時間が進行しないと解すべきである。

(二) 亡好夫の代理人である被控訴人須藤は、昭和四五年四月一八日茨城県那珂郡東海村の「いこい食堂」において、東海村農業委員会委員大内朝次ほか一名をまじえて本件土地の所有名義を被控訴人尹に移転する方策を同被控訴人と協議した際、同人に対し亡好夫の前記許可協力義務を承認した。よって、前記消滅時効は右により中断した。

(三) 被控訴人尹は、本件売買契約後昭和四六年まで、毎年七月と一二月の二回亡好夫方ないし被控訴人須藤方に物品を届けていたが、その都度同人らは前記許可協力義務を承認していたので、これにより時効は中断している。

(四) 本件土地については昭和四六年六月三〇日付で亡好夫から被控訴人須藤に相続を原因とする所有権移転登記が経由されているが、右登記は、被控訴人尹に所有権移転登記をする準備として同被控訴人と被控訴人須藤が協力してこれを実現したものであり、その際被控訴人須藤は前記許可協力義務を承認していたから、これにより、同被控訴人は前記消滅時効の利益を放棄したものである。

(五) 被控訴人須藤は、控訴人が本訴において前記消滅時効を初めて援用、主張する前の昭和四七年一一月二九日答弁書を提出し、これを同日の原審第六回口頭弁論期日において陳述し、被控訴人尹の主張事実をすべて認め、前記許可協力義務を承認したから、これにより時効の利益を放棄したものというべきである。

(六) 本件売買契約後、売主側は既に代金全額を受領し売買の目的を達しており、単に所有権移転登記義務を残すのみであったから、本件土地に対し何らの実力的支配をしなかったことはもちろん、被控訴人尹に登記名義を得させようとして種々協力した。このような事情があるのに、後日被控訴人須藤が前記消滅時効を援用することは、著しく信義に反し、権利の濫用として許されないものというべきであり、したがって、控訴人において同被控訴人に代位して右援用をすることも許されないものと解すべきである。

8  再々抗弁に対する控訴人の認否

すべて争う。

三  被控訴人尹の控訴人に対する反訴請求

1  被控訴人尹の反訴請求原因

被控訴人尹は、前記一、1において主張したところに基づき、被控訴人須藤に対し本件土地の引渡しを求めるものであるが、従来の経過にかんがみると、控訴人は被控訴人須藤が被控訴人尹に本件土地を引き渡すことを妨害し、被控訴人尹の所有権の行使を妨げるおそれが大である。

よって、被控訴人尹は控訴人に対し、民法一九九条の準用により、右引渡しの妨害禁止を求める。

2  反訴請求原因に対する控訴人の認否争う。

第三証拠関係《省略》

理由

一  以下の事実は、いずれも全当事者間に争いがない。

1  本件土地はもと亡好夫の所有であったところ、被控訴人尹は、昭和三五年八月八日亡好夫との間に、これを買い受ける旨の本件売買契約を締結し、同日付をもって本件仮登記を経由した。

2  被控訴人尹は、亡好夫との間で本件土地について抵当権設定契約を締結し、昭和三六年一月一二日その旨の登記を経由した。

3  被控訴人尹は、昭和四六年一月一八日亡好夫を債務者として本件土地につき処分禁止の仮処分決定を得、同日その旨の嘱託登記がされた。

4  亡好夫は昭和四六年二月一一日死亡し、その子である被控訴人須藤が相続により本件土地に関する権利義務を承継し、同年六月三〇日右相続を原因とする所有権移転登記が経由された。

5  控訴人は、本件土地について、昭和四六年九月二一日付をもって農地法五条の許可を条件とする売買を原因として所有権移転仮登記を経由し、次いで同年一〇月七日茨城県知事により同条一項三号の届出が受理され、同月一一日付をもって右仮登記に基づく本登記を経由した。

二  本件土地の現況について

本件売買契約当時、本件土地の登記簿上の地目が畑であったことは全当事者間に争いがないところ、その現況について、被控訴人尹は、右契約当時既に雑地ないし原野状態を呈し農地ではなかったし、仮に農地であったとしても、遅くとも右契約から七年を経た昭和四二年八月八日ころには全く非農地と化し、現在も同様であると主張し、控訴人は、右契約当時から現在まで一貫して農地であると主張するので、以下検討する。

1  《証拠省略》を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  本件土地を含む一帯の土地は、かつて訴外前島英次郎の所有であったが、戦後自作農創設特別措置法により買収期日を昭和二四年七月二日として買収がされた。本件土地は、当時茅や篠が生え原野状を呈していたものであり、昭和二七年三月一日を売渡期日として政府から亡好夫に売渡しがされ、昭和二九年四月一五日その旨の所有権移転登記が経由された。

(二)  亡好夫は、右売渡しを受けた後本件土地を畑として耕作してきたが、湿地で収穫も少なく、昭和三五年八月八日の本件売買契約締結当時はそのうち約一反歩に陸稲を作付けしただけで、他の部分は耕作していなかった。そして、右契約後、亡好夫は、同年秋に陸稲の取入れをしたが、翌年以降はもはや他人に売渡し済みの土地であるとして、本件土地についての一切の耕作を止め、一方、被控訴人尹は、水戸市内で貴金属商を営む者であって、農地以外に転用する目的で本件土地を買い受けたものであり、これを耕作する意思がなかったので、本件土地は、以来耕作ないし肥培管理を全くされないまま放置され、その後一時期付近の住人が断りなく一部に野菜を植えていたこともあったが、それも昭和四一年ころが最後であり、茅、篠等のほか雑草が一面に繁茂するにまかされた。

(三)  被控訴人尹は、本件売買契約後、本件土地の所有権移転登記を受けたいと考え、農業委員会に問い合わせたりしたが、本件土地が自作農創設特別措置法により売り渡された土地であることや、被控訴人尹に十分な資金計画がなかったことなどから、農地法五条の許可を得る見込みが立たないまま期日が経過した。

こうして、昭和四五年四月ころに至り、被控訴人尹は、亡好夫の長男被控訴人須藤と共に東海村農業委員会委員大内朝次ほか一名を茨城県珂那郡東海村の食堂「いこい」に招き、登記名義を取得する方策について意見を聞いたところ、右農業委員らは、当時の本件土地の現況がもはや農地とはいえない状態になっているものと判断し、まず農地法四条により転用許可を得た上で被控訴人尹に名義変更をするのが得策であるとの示唆を与えた。そこで、亡好夫は、同年五月二六日本件土地について、「昭和三五年八月八日まで耕作していたが、収穫が少ないため被控訴人尹に停止条件付で売却し、代金全額を受領したのでその後放置してあり、現況は原野である」という趣旨を記載した農地法四条による転用許可申請書を東海村農業委員会に提出したが、同委員会では、その事務局において、本件土地が自作農創設特別措置法により耕作すべき土地として亡好夫に売り渡された土地であり、他に売却して耕作を止め放置しているという右申請書記載の事由では軽々に転用を許可することはできないとの見解に立ち、右申請書の形式が不備であるとして、そのころこれを受理することなくそのまま同人に返却した。

(四)  被控訴人須藤は、かつては亡好夫と共に農業に従事していたが、昭和三七年七月から町役場に、次いで昭和四四年ころから消防職員として勤務し、農業を全く離れており、本件土地は、昭和四六年二月一一日亡好夫死亡後も引き続き耕作ないし肥培管理をされることなく放置されていた。

一方、本件土地の周辺土地は次第に宅地化が進み、本件土地も含め昭和四六年三月一五日都市計画法七条の市街化区域に指定された。

本件土地は昭和四七年五月四日別紙物件目録記載(一)の土地と同(二)の土地との二筆に分筆され、同(二)の土地は右分筆と同時に公衆用道路に地目変更され、以来道路として利用されている。同(一)の土地は、従前に引き続き雑草等が繁茂し、草藪状となって荒れるにまかされていたが、東海村が昭和四九年同土地の北側に排水路を開設するにあたり、同土地全体に盛土をした上、地ならしを行い、また昭和五〇年ころ控訴人が右雑草等を除草剤により除去したため、当審において検証がされた昭和五二年九月三〇日当時には平担な草原のような状態を呈していた。右検証当時、周辺の土地は住宅が立ち並び、宅地化がますます進んでいる状況であり、同(一)の土地は、その後も耕作ないし肥培管理をされることは全くなく、再び雑草等が繁茂するにまかされ、現在に至っている。

以上のとおり認められ(る。)《証拠判断省略》

2  右に認定したところによれば、本件土地は、本件売買契約締結当時は全体としてその現況が農地であったということを妨げないけれども、その後耕作ないし肥培管理をされることなく放置され、右契約締結後一〇年を経過した昭和四五年八月八日までにはその現況が客観的に農地としての性質を失うに至り、遅くとも右一〇年経過以降は、一貫して農地でない状態が続いて現在に至っているものと認めるのが相当である。農地法二条一項にいう農地とは、耕作の目的に供される土地をいい、現に耕作されている土地はもちろん、現在は耕作されていなくても、耕作しようとすればいつでも耕作できるような土地、すなわち、客観的に見てその現状が耕作の目的に供されるものと認められる土地(休耕地、不耕作地)もまた農地と認めるべきものと解されるが(昭和二七年一二月二〇日農地第五二九号農林事務次官通達参照)、本件土地は、本件売買契約締結当時においても約一反歩に陸稲が作付けされていた程度で、その後関係者には全く耕作の意思がなく、何らの耕作ないし肥培管理のされないまま長年月にわたり放置されていたものであり、右契約締結後一〇年を経過するまでには、もはや右に述べたような休耕地、不耕作地と認めることもできない状態となっていたものというべきである。

控訴人が、事実欄第二、二、4、(三)、(2)の(ロ)において、昭和四五年五月二六日亡好夫がした農地法四条による転用許可申請に関し主張する点については、前記1(三)に認定した経緯に照らすと、右申請が不首尾に終わったからといって、当時東海村農業委員会が本件土地の現況を農地と判定していたものとみることはできない。また、控訴人が、昭和四六年一〇月七日控訴人及び被控訴人須藤がした農地法五条一項三号による所有権移転の届出の受理に関し主張する点については、右届出の受理が、担当機関において本件土地の現況を農地であるか否かの観点から調査した上、農地であると判断した上で行われたものであることを認めるに足りる証拠はないから、右主張も失当である。更に、控訴人は、前同(2)の(ハ)において、ブルドーザーや耕耘機をもってすれば、本件土地を耕作可能の状態にすることは容易であり、その費用もさしたる額を要しない旨主張し、丙第三三号証を提出するが、先に認定した本件売買契約締結時以降の長年にわたる本件土地の客観的状況に、関係者の耕作に対する意欲の欠如等をあわせ考えると、機械を用いれば耕作可能の状態にすることが必ずしも困難ではないとの一事は本件土地の現況が非農地と化したとの前記認定の妨げとはならないものというべきである。そして、そのほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  本件売買契約の合意解除について

控訴人は、被控訴人尹と亡好夫との間で、昭和三六年一月一二日本件売買契約を合意解除するとともに、亡好夫が既に受領済みの売買代金の返還債務の処理として、準消費貸借契約が締結され、これに基づく債権を担保するために前記一、2判示の抵当権設定契約が締結された旨主張するので、検討する。

1  成立について全当事者間に争いのない丙第五号証の二、同第二四号証、同第二七ないし第二九号証にはいずれも右主張にそう記載があり、《証拠省略》によれば、右各書面はいずれも被控訴人須藤が自ら記載したものであることが認められる。しかし、《証拠省略》によると、控訴人は、後記認定のとおり被控訴人須藤との間に昭和四六年九月ころ本件土地について売買契約を締結して本件土地を獲得しようと画策し、被控訴人須藤も、右当時は、控訴人の誘いに乗り欲心を起こして控訴人に本件土地の登記名義を得させようと協力していたところ、同年一〇月ころ右両名は、被控訴人尹の告訴により右売買契約が本件土地を二重売買したもので犯罪を標成する疑いがあるとして、警察の取調べを受けるに至ったこと、右各書面は、右のような状況の下で、控訴人が、被控訴人尹を排除し、右売買契約が二重売買にあたるとの非難を免れようとする意図をもって、前記一、2判示の抵当権設定契約の締結に直接関与したわけでもない被控訴人須藤の説明と本件土地の登記簿の記載をもとにして、同人に示唆、暗示を与えるなどしながら、控訴人自らに都合の良いように事実関係を構成して文案を作り、被控訴人須藤がこれをそのまま書き写して作成したものであり、その記載内容には事実にそわない部分が多々あることが認められ(る。)《証拠判断省略》右認定事実に照らすと、前記丙号各証は、控訴人の前記主張事実を肯認するための証拠とはならないものというべきである。

次に、《証拠省略》中前記主張にそう部分は、被控訴人須藤からその趣旨の説明を受けたとするものか、控訴人自身が本件土地の登記簿の記載から本件売買契約の合意解除があったものと推測したというにすぎず、これをもっては到底前記主張事実を認めるに足りない。

また、控訴人は、本件売買契約に際し作成された契約書である甲第二号証及び丙第三〇号証の売買代金額欄の記載の訂正、金一〇三万円の領収証である甲第三号証の作成が、前記抵当権設定登記のころにされているとし、このことは控訴人主張の合意解除の存在を明らかに示しているとも主張するが、右記載の訂正等が控訴人主張の右時期にされたことを認めるに足りる証拠はないから、控訴人の右主張はその前提を欠き採用の限りでない。

そして、以上のほかに、控訴人主張の前記合意解除の事実を認めるに足りる証拠はない。

2  かえって、《証拠省略》を総合すれば、被控訴人尹は、前認定のとおり本件売買契約締結後、農地法五条の許可を得ることが困難な状況であったことから、本件土地の所有権移転及びその登記を受けることができなくなったときには、せめて支払済みの代金一〇三万円(右代金額が控訴人主張のように金九三万円であったことをうかがわせる証拠はない。)を確実に回収することができるように、昭和四六年一月一二日ころ亡好夫との間に、前記抵当権設定契約を締結し、右同日、登記原因を、「昭和三五年八月八日金銭消費貸借についての同日抵当権設定契約」とし、債権額を金一〇三万円として抵当権設定登記を経由したものであって、控訴人主張のように本件売買契約を合意解除した上で抵当権の設定を合意したものではないことが認められる。

3  よって、控訴人の前記合意解除の主張は採用することができない。

四  本件売買契約の効力について

前記二において認定、判示したとおり、本件土地は、遅くも本件売買契約締結後一〇年を経過した昭和四五年八月八日までには農地でなくなったものであり、同1認定の事実関係に照らすと、右のような本件土地が非農地化したことについて被控訴人尹に格別責められるべき事由はないものと認められるから、本件売買契約は、本件土地が非農地化した時点において、もはや農地法五条の許可を経ることなしに完全にその効力を生ずるに至ったものと解するのが相当である。

したがって、右によれば、被控訴人尹の有する農地法五条の許可協力請求権が一〇年の経過により昭和四五年八月八日をもって時効消滅したとして、自ら又は被控訴人須藤に代位して右時効を援用し、本件売買契約の失効をいう控訴人の主張は、右のとおり時効期間満了前に農地法五条の許可が不要に帰したものである以上、その余の点を検討するまでもなく失当であるというほかない。

五  控訴人・被控訴人須藤間の売買について

1  《証拠省略》を総合すれば、控訴人は、昭和四四年に免許を受けて宅地建物取引業を営む者であるが、昭和四六年法務局で本件土地の登記簿を閲覧し、本件仮登記のほかに前記抵当権設定登記がされていることから、本件仮登記は債権担保のためのものではないかと推測し、同年九月ころ被控訴人須藤に本件土地の買受方を申し込む一方、被控訴人尹にも会い、相当多額の出費を覚悟すれば本件土地取得の可能性があるとの感触を得たこと、被控訴人須藤は、当時本件土地の時価が著しく高騰していたこともあり、不動産取引に明るい控訴人から再三にわたり「儲けたら分け前をやるから、本件土地の一切を任せてくれ。被控訴人尹には抵当権の被担保債権を弁済すればよい。二重売買になることはないから心配ない。」などと誘われて欲心を起こし、控訴人に本件土地を売却する気になったこと、そこで、控訴人及び被控訴人須藤は、同年九月ころ本件土地の売買契約書(丙第三号証)にそれぞれ署名押印し、控訴人は被控訴人須藤に対し、売買代金(当時総額について明確なとりきめはされていなかった。)の内金一〇〇万円を支払ったこと(丙第三号証中の二六〇〇万円なる代金額及び同号証、丙第四号証中の昭和四六年七月一日なる日付は、控訴人が後日書き入れたものである。)、その後被控訴人須藤は、控訴人の求めに従い、前記一、5判示の控訴人名義の仮登記、本登記の各手続及び茨城県知事に対する届出に必要な協力をしたこと、以上のとおり認められ(る。)《証拠判断省略》

2  右に認定したところによれば、控訴人は、その主張の日とは異なるが、昭和四六年九月ころ被控訴人須藤との間に、本件土地を買い受ける旨の売買契約を締結したものと認められる。

被控訴人らは、右売買契約は民法九四条又は同法九〇条により無効であると主張するが、右に認定した事実関係に照らすと、右売買契約が仮装のものでないことは明らかであり、また、控訴人が被控訴人ら主張のように、被控訴人尹の権利を不当に侵害する目的で右契約を締結したものとまではいえず、そのほかに右契約が公序良俗に反する無効のものであるとしなければならないような事情は、本件全証拠によるも認められないから、右主張はいずれも失当である。

六  以上の説示に基づき、本件各請求の当否を検討する。

1  被控訴人尹が昭和四六年一月一八日亡好夫を債務者として、本件土地につき処分禁止の仮処分決定を得、同日その旨の嘱託登記がされたこと、その後本件土地について同年六月三〇日付で被控訴人須藤のため相続を原因とする所有権移転登記がされ、続いて控訴人名義の所有権移転仮登記及び本登記が経由されていることは、前記一の3ないし5に判示したとおりであり、《証拠省略》によれば、右処分禁止の仮処分決定の被保全権利は本件土地の所有権移転登記請求権であると認められる。

そうすると、控訴人名義の右所有権移転仮登記及び本登記の原因である昭和四六年九月ころ締結された控訴人・被控訴人須藤間の前認定の売買は、右仮処分決定に牴触するものであり、したがって、控訴人は、被控訴人尹に対しては、右売買による所有権取得を対抗することができないものといわざるをえない。

そうすると、控訴人の本件参加請求中、別紙物件目録記載(一)の土地について被控訴人須藤との間に所有権確認を求める請求は、理由があるものとしてこれを認容すべきであるが、被控訴人尹に対する所有権確認請求、本件仮登記及び抵当権設定登記の各抹消登記手続請求は、すべて理由がないものとしてこれを棄却すべきである。

2  被控訴人尹は、本件売買契約が農地法五条の許可を経る必要なく効力を生じたことにより、既に本件土地の所有権を取得したものである。そして、《証拠省略》によれば、前記仮処分決定は処分禁止のほかに亡好夫に対し本件土地の占有移転をも禁止していることが認められ、右事実及び前記五、1に認定した事実関係に弁論の全趣旨をあわせれば、本件土地は、亡好夫の相続人である被控訴人須藤が現在もこれを占有していること、控訴人は、被控訴人尹が被控訴人須藤から本件土地の引渡しを受けるについて、これを妨害し、被控訴人尹の所有権の行使を妨げるおそれがあることを認めることができ、右認定を左右すべき証拠はない。

そうすると、被控訴人尹は、所有権に基づき、被控訴人須藤に対し、本件土地について本件仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をし、本件土地を引き渡すことを、控訴人に対し、右引渡しの妨害禁止をそれぞれ求めることができるものというべきであり、被控訴人尹の被控訴人須藤に対する本訴請求(原審における第二次的請求)及び控訴人に対する反訴請求は、いずれも正当としてこれを認容すべきである。

七  よって、原判決中控訴人の参加請求のうち、被控訴人須藤に対する別紙物件目録記載(一)の土地の所有権確認請求を棄却した部分を取り消して右請求を認容し、控訴人のその余の参加請求に関する控訴は理由がないからこれを棄却し、かつ、当審で追加された控訴人の被控訴人尹に対する抵当権設定登記の抹消登記手続請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木潔 裁判官 鹿山春男 河本誠之)

〈以下省略〉

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